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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7309号 判決

原告

川端和成

被告

ナショナルタクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三二四八万七二三〇円及びこれに対する平成七年六月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金九五一三万四一八六円及びこれに対する平成七年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告澁谷喜義が運転する普通乗用自動車(保有者被告ナショナルタクシー株式会社)と原告が運転する自動二輪車が衝突し、原告を負傷させた事故につき、原告が被告澁谷喜義に対しては、民法七〇九条に基づき、被告ナショナルタクシー株式会社に対しては、民法七一五条及び自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年六月一五日午後二時五六分頃

場所 大阪市東淀川区大道南一丁目四番一五号先(国道四七九号線)路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(大阪五五き八二〇〇)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告澁谷喜義(以下「被告澁谷」という。)

右保有者 被告ナショナルタクシー株式会社(以下「被告会社」という。)

事故車両二 自動二輪車(一なにわけ二四五一)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

態様 本件事故現場は、制限速度時速六〇キロメートル、車道片側二車線、自転車道、歩道の区別のある道路である。被告澁谷は、被告車両を運転し、北から南に向けて車道右側車線を進行していたが、乗客を乗せるため、左側車線に進路を変更したところ、折から、原告車両を運転し、北から南に向けて左側車線を進行していた原告に接触した。

2  責任原因

(一) 被告澁谷の責任原因

被告澁谷は、後方の安全確認を怠った過失があるから、民法七〇九条により原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

(二) 被告会社の責任原因

被告会社は、被告車両の保有者である。

被告会社は、タクシー運送事業を営んでおり、被告澁谷は、その従業員であった。

本件事故は、被告澁谷が右職務に従事している間に発生したものである。

よって、被告会社は、民法七一五条及び自賠法三条により原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

3  損害の填補

原告は、本件交通事故に関し、被告会社の付保する安田火災海上保険株式会社から自賠責保険金として、一二九六万円、被告会社から休業損として三二〇万円、治療費一一〇万一九五〇円の支払を受けた。

二  争点

1  被告澁谷の過失

(原告の主張)(一部争いのない事実を含む。)

被告澁谷は、本件事故現場の道路において、進路を左側車線に変更しようとするときには、その旨の合図をし、左後方の交通の安全を確認し、進路を変更すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、その合図をすることなく、漫然と進路を変更し、左側車線に進入した重大な過失により、本件事故を惹起したものである。

(被告らの主張)

被告澁谷が進路変更の合図をしなかったことは不知(被告澁谷が後方の安全確認を怠ったことは前記のとおり争いがない。)。

2  原告の傷害等

(原告の主張)

原告は、本件事故の結果、右急性硬膜外血腫、左側頭葉脳挫傷、同側半盲等の傷害を受けた。

原告は、右急性硬膜外血腫、左側頭葉脳挫傷につき、平成八年二月二三日、同側半盲につき、平成八年五月二〇日、症状固定した。原告には、右半身知覚低下、歩行遅鈍、脳波軽度異常、瞳孔不同及び同側半盲の後遺障害が残っている。

右後遺障害は、自賠法施行令別表後遺障害別等級表併合六級(七級四号及び九級三号)に該当する。

(被告らの主張)

不知。

3  損害額

(原告の主張)

(一) 治療費 一一七万〇八九〇円

医誠会病院等治療費 一一六万一〇四〇円

東洋医学研究所附属診療所治療費 九八五〇円

(二) 入院雑費 一四万〇四〇〇円

原告は、医誠会病院に平成七年六月一五日から同年九月三〇日までの一〇八日間入院した。右期間の入院雑費として、一日あたり一三〇〇円として合計一四万〇四〇〇円を要した。

(三) 通院交通費 二万一九四〇円

医誠会病院の通院交通費 一万八四〇〇円

ただし、通院日数は、平成七年一〇月一日から平成八年五月二五日まで二三日間であり、一回あたりの交通費は往復八〇〇円である。

摂津医誠会病院の通院交通費 二二八〇円

ただし、通院日数は、二日間であり、一回あたりの交通費は往復一一四〇円である。

東洋医学研究所附属診療所の通院交通費 一二六〇円

ただし、通院日数は、三日間であり、一回あたりの交通費は往復四二〇円である。

(四) 休業損害 九七六万〇七八四円

原告は、本件事故当時、川端歯材店の名称で歯科医薬材販売業を経営し、年収一〇四四万七七七七円(一日あたり二万八六二四円)の収入を得ていたが、本件事故日から症状固定日である平成八年五月二〇日まで三四一日間休業を余儀なくされた。

(計算式) 28,624×341=9,760,784

(五) 後遺障害逸失利益 八〇七五万二一二二円

原告は、後遺障害により、その労働能力の少なくとも六七パーセントを五一歳から六七歳まで一六年間(新ホフマン係数一一・五三六)喪失した。基礎収入とすべき年収は、一〇四四万七七七七円である。

(計算式) 10,447,777×0.67×11.536=80,752,122

(六) 入通院慰謝料 三〇〇万円

(七) 後遺障害慰謝料 一二五〇万円

(八) 物損(原告車両全損) 五万円

(九) 弁護士費用 五〇〇万円

(被告らの主張)

不知。

原告の後遺障害の等級は、眼の障害につき九級三号、頭部神経症状につき一二級一二号、併合八級と判断すべきである。

原告の逸失利益算定上の基礎収入は、企業収益に原告の寄与率を乗じた金額とすべきであり、そうすると、純所得六二五万一〇四九円に原告の寄与率(七ないし八割)を乗じた金額とすべきである。

4  過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は、原告が被告車両と第一回目の接触をした後、再度第二回目の接触をして原告が転倒したというものである。原告は、荷台に多量の重量物を積載していたため、適切なハンドル操作ができず、第二回目の接触をするに至ったものである。

また、原告は、本件事故当時、おわん型のヘルメットを頭部に乗せてはいたが、紐で固定しておらず、わずかな衝撃でヘルメットは頭部から落下する状態であった。そのため、原告の頭部からヘルメットがはずれ、頭部に重篤な傷害を負ったのである。

以上のとおり、原告には、前方不注視の外、積載物の大きさ、重量違反による運転操作の不適の過失及びヘルメットの固定に関する過失があるので、右の点を考慮して過失相殺すべきである。

(原告の主張)

否認する。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1及び4について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲一2ないし4、7、乙一、二、検乙三、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪市東淀川区大道南一丁目四番一五号先(国道四七九号線)路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場には、南北方向の国道四七九号線が通っているが、このうち、北から南に向かう車線(以下「本件道路」という。)は基本的に二車線である。本件道路の前方の見通しはよく、速度制限は時速六〇キロメートルとされていた。

被告澁谷は、平成七年六月一五日午後二時五六分頃、被告車両を運転し、本件道路の右側車線を北から南に向かって時速約三〇キロメートルで走行し、別紙図面〈1〉地点で同図面〈A〉地点で手を上げている客を認め、被告車両をその付近に停めようと考え、時速約二〇キロメートルに減速した上、進路を変更する合図をすることなく、同図面〈2〉地点からハンドルを左に切ったところ、同図面〈×〉地点において、それまで全く気づいていなかった原告車両と衝突し(右衝突時点の被告車両の位置は同図面〈3〉地点、原告車両の位置は同図面〈ア〉地点である。)、同図面〈4〉地点に停車させた。原告車両は同図面〈ウ〉地点に転倒し、原告は同図面〈イ〉地点に転倒した。原告車両には、本件事故当時、プラスチックケース二個、ダンボール箱一個、一斗缶(石膏入)一個を積載されており、原告は、これを原告車両の後部席とステップ部分に積んで走行していた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、被告らは、原告が、本件事故当時、ヘルメットをひもで固定していなかったこと及び原告車両と被告車両とが二度接触したことを主張するが、これらの事実を認めるに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告澁谷が進路を変更するに際し、進路変更の合図をせず、かつ後方の安全を確認することを怠った過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、その反面において、原告においても進路右前方を走行する被告車両がタクシーであることはその形状から容易に理解しうるし、バス停の付近ではバスを待たずにタクシーを呼び止める客が比較的多く存することは公知の事実であって、現に本件においても別紙図面〈A〉地点で手を上げている客が存在したのである。右の事情にかんがみると、原告としても、被告車両の左後方を進行するに際しては被告車両の動静(減速状況)に一定の注意を払うことが期待されたというべきであるところ、前記事故態様に照らすと、原告にも右注意を欠く点があったことは否定できない。また、原告が原告車両に一斗缶等多量の荷物を積載していたことからすると、被告車両との衝突前後の原告車両の操作に困難な面があったとうかがわれる。そこで、本件においては、これら一切の事情を斟酌し、一五パーセントの過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(原告の傷害及び後遺障害の内容)

1  証拠(甲二ないし六、七1ないし3、一五1及び2、乙二〇、二一1及び2、二四2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故当日の平成七年六月一五日、半昏睡状態で救急車により医誠会病院に運ばれ、右急性硬膜外血腫、左側頭葉脳挫傷の傷病名で同日から同年九月三〇日(一〇八日間)まで入院し、入院翌日の平成七年六月一六日、右急性硬膜外血腫に対し、開頭血腫除去術の手術を受けた。手術後、原告は徐々に意識を回復したが、右半身知覚障害、歩行障害、記憶障害を残したまま、平成七年九月三〇日、同病院を退院し、その後、同病院に同年一〇月一日から平成八年二月二四日(実通院日数一六日)まで通院しながら経過観察ないし、リハビリを受けることになった。

右入通院期間中、医誠会病院において、原告の知能検査が施行された。その概要は、次のとおりである。

(1) WAIS知能検査

施行日 平成七年八月一八日から同月二五日

検査結果 言語性検査 IQ九八

動作性検査 IQ一〇二

総合評価 IQ九九(ほぼ標準と認める)

(2) WAIS知能検査

施行日 平成八年二月九日

検査結果 言語性検査 IQ一一一

動作性検査 IQ一〇六

総合評価 IQ一〇九(知能低下を認めず)

(3) MMS記憶検査

施行日 平成八年二月九日

検査結果 有意味 二五問中二五問正解

無意味 二五問中一五問正解

評価 有意味・無意味とも正常範囲内

(4) 失語症検査

施行日 平成八年二月二七日

検査結果 理解検査 聴理解、読解共に特に問題なし

表出検査

発語検査 呼称、動作説明、復唱、音読等特に問題なし。ただし、若干語想起能力の低下を認める。

書字検査 漢字、仮名共に問題なし

計算検査 加・減・乗・除算共に特に問題なし

(5) 掘り下げテスト

施行日 平成八年二月二七日

検査結果 新聞音読、漢字の書写を施行したところ、誤りの頻度は少ないが、漢字の読み違い(例えば、挙げる→かかげる)や書写の誤り(例えば、汽車→気車、理科→理化)を認める。

右期間中、摂津医誠会病院に平成七年八月二日から平成八年五月二〇日(実治療日数三日)まで通院した。

(二) 原告は、医誠会病院の新居康夫医師(原告の主治医である。)により、右急性硬膜外血腫、左側頭葉脳挫傷につき、平成八年二月二三日をもって症状固定とされ、後遺障害として、自覚的には、記憶障害(主として言語に関して)、歩行障害(遅鈍)、他覚症状及び検査結果としては、軽度の右半身知覚低下、歩行遅鈍、脳波軽度異常(前頭葉の徐波化)、頭部CTで左側頭葉底部に古い挫傷の痕、瞳孔不同、言語機能の障害としては、ごく軽度の失書と軽度の語想起障害があるとされ、高度の専門的知識を要する職種には支障を来たすと考えられると意見が述べられている。

また、同側半盲については、摂津医誠会病院の妻野光則医師により、平成八年五月二〇日をもって症状固定とされ、後遺障害として、自覚的には、「新聞が読みづらい、かすむ」とされ、眼球等の障害として、視野に関し左半部の視野欠損が生ずる半盲とされ、今後もほとんど変化がないと思われると意見が述べられている。

(三) 自賠責の事前認定手続に必要な資料として、原告の姉である芦田龍子によって「日常生活状況報告書」(平成八年五月二七日付)が作成され、それによると、例えば、

問「いま何時頃かわかりますか」答「いいえ」、

問「いま聞いたことをすべて忘れてしまいますか」答「はい」、

問「簡単な割算はできますか」答「いいえ」、

問「簡単な買物をして釣銭の計算はできますか」答「いいえ」、

問「来客と話ができますか」答「いいえ」、

問「物の名前を思い出せませんか(タバコ、マッチ等)」答「はい」、

問「普通に話ができますか」答「いいえ」、

問「何をいっているのか話の内容がわかりませんか」答「はい」

と記入されている。

(四) そして、自賠責の事前認定手続において、自算会近畿地区本部は、主として、後遺障害診断書、CT画像、日常生活状況報告書等から、原告の後遺障害は、後遺障害別等級表七級四号及び九級三号で併合六級に該当する旨の認定を行った。弁護士法二三条の二第二項に基づく照会に対し、自算会近畿地区本部は、右等級認定の際、前記知能検査の結果を記した資料は提出されておらず、前記(一)(2)の知能検査によると、通常人レベルの検査結果が得られているように思われるが、日常生活状況報告書との整合性に疑問があり、右知能検査の結果から等級を判断することは困難である旨の回答をしている。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実によれば、原告の症状は、平成八年五月二〇日には固定し、その後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表九級三号(両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの)及び九級一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当し、併合八級に相当するものというべきである。

この点、原告は、自賠責の事前認定と同様、原告の後遺障害は併合六級(七級四号及び九級三号)に該当する旨の主張をする。しかしながら、右事前認定手続においては、前記知能検査等の結果は資料とされていないこと、資料とされた日常生活状況報告書の記載内容と右検査等の結果との整合性には疑問が残ること、右検査等は専門の担当者によって実施されたものであることにかんがみると、自賠責の事前認定の結果が前記のとおりであるからといって、これに依拠することは相当ではなく、他に、頭部神経症状について七級四号に該当することを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張を採用することはできない。

三  争点3について(損害額)

1  治療費 一一六万一〇四〇円

証拠(甲八)及び弁論の全趣旨によれば、医誠会病院等の治療費として一一六万一〇四〇円を要し、既に認定した事実によれば、これと本件事故との間には相当因果関係があると認めることができる。これに対し、東洋医学研究所附属診療所における治療については、これを必要と認めるに足りる証拠はない。

2  入院雑費 一四万〇四〇〇円

前記のとおり、原告は、医誠会病院に平成七年六月一五日から同年九月三〇日までの一〇八日間入院したから、右期間の入院雑費として、一日あたり一三〇〇円として合計一四万〇四〇〇円を要したと認められる。

3  通院交通費 一万五〇八〇円

証拠(甲六、七1、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成七年一〇月一日から平成八年二月二四日まで医誠会病院への通院のため、交通費として、一万二八〇〇円(往復八〇〇円×一六日間)、摂津医誠会病院への通院のため、交通費として、二二八〇円(往復一一四〇円×二日間)を要したことが認められる。右期間以降の医誠会病院への通院及び東洋医学研究所附属診療所への通院については、これを必要と認めるに足りる証拠はない。

4  休業損害 八六九万〇八九四円

まず、休業損害算定上の基礎収入について検討するに、証拠(甲一三1及び2、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、川端歯材店の名称で歯科医薬材販売業を経営しており、基本的に原告一人で仕事をしていたこと、その平成六年度分の申告所得額は六二五万一〇四九円であり、同年度における事業の維持・存続のために営業の休止状態にあるかどうかにかかわらずに支出することが必要とされる経費は、租税公課五四万五三五〇円、損害保険料三八万一六九九円、利子割引料三七万二五七三円、地代家賃料一三〇万二〇二七円、諸会費五七万七八七〇円、リース料九一万七二〇九円であったことが認められる。以上によれば、事業の再開の可能性がある間は、右申告所得額に右経費分を加えた一〇三四万七七七七円をもって基礎年収とするのが相当であるが、事業を廃止することに確定した以降は、もはや右経費を支出する理由はないから、申告所得額の六二五万一〇四九円をもって基礎年収とするのが相当である。

そして、右急性硬膜外血腫、左側頭葉脳挫傷につき、平成八年二月二三日をもって症状固定とされたこと(前記のとおり)、これに少し遅れて原告は平成八年三月五日付けで大阪府知事に対し、歯科医薬材販売業に伴う毒物劇物一般販売業の廃止の届書を提出していること(甲一二4)にかんがみると、本件事故日から平成八年二月二三日までの二五四日間は、歯科医薬材販売業を再開するかどうか未定であったが、同月二四日以降平成八年五月二〇日までの八七日間は、歯科医薬材販売業を廃止することは確定した状態であったと認められる。

そこで、本件事故日から症状固定時(平成八年五月二〇日)まで三四一日間の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、八六九万〇八九四円であると認められる。

(計算式) 10,347,777×254/365+6,251,049×87/365=8,690,894(一円未満切捨て)

5  後遺障害逸失利益 三二四五万〇四四五円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表九級三号及び九級一〇号に該当し、併合八級に相当する。そして、右後遺障害の内容、原告の年齢等にかんがみると、原告は、右後遺障害により、平均してその労働能力の四五パーセントを症状固定時(五一歳)から六七歳までの一六年間喪失したものと認めるのが相当である。

原告の本件事故当時の年収が六二五万一〇四九円であったことは前記のとおりである。

そこで、右年収を基礎に、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおり、三二四五万〇四四五円になる。

(計算式) 6,251,049×0.45×11.536=32,450,445(一円未満切捨て)

6  傷害慰謝料(入通院慰謝料) 一六〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は、一六〇万円が相当である。

7  後遺障害慰謝料 一一〇〇万円

原告の後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、一一〇〇万円が相当である。

8  物損 認められない。

原告車両に関して生じた物損の額を認めるに足りる証拠はない。

9  過失相殺後の金額 四六七九万九一八〇円

以上掲げた損害の合計は、五五〇五万七八五九円であるところ、右金額から過失相殺として一五パーセントを控除すると、四六七九万九一八〇円(一円未満切捨て)となる。

10  損害の填補分を控除後の金額 一二七〇万七六六五円

前記争いのない事実のとおり、原告は、本件交通事故に関し、合計一七二六万一九五〇円を受領しているから、これを四六七九万九一八〇円から控除すると、二九五三万七二三〇円となる。

11  弁護士費用 二九五万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、弁護士費用は二九五万円を相当と認める。

12  まとめ 三二四八万七二三〇円

以上によれば、原告の請求しうる損害額は、三二四八万七二三〇円であると認められる。

四  結論

以上の次第で、原告の被告らに対する請求は、各三二四八万七二三〇円及びこれに対する本件不法行為の翌日である平成七年六月一六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面

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